東京大学大学院新領域創成科学研究科附属フュージョンエネルギー学際研究センター長の江尻晶教授は、学生時代から核融合研究に携わる日本有数の核融合研究者のお一人です。ご自身の研究室での研究活動に加え、2025年4月にフュージョンエネルギーの基礎研究から社会実装までを目標に、要素技術研究とシステム開発を国内外・産学連携のもとで学際的に推進する「フュージョンエネルギー学際研究センター」を東京大学で開設し、センター長を務められています。さらに、東京大学と民間企業8社による社会連携講座として、「フュージョンシステム設計学」も開設し、担当教員としてフュージョンエネルギーの学術・技術体系の構築と人材育成を産学連携で推進されています。
江尻先生がこれまでどのような核融合研究に関わってこられたのか、そして2030年代の発電実証を目指す産学連携プロジェクト「FAST」に掛ける想いを聞いてきました。
Q : 江尻先生はプラズマ研究の第一人者ですが、これまでどのような研究をされてきたのでしょうか
遡ること学生時代に、東京大学の宮本健郎・遠山濶志研究室でトカマクと似た逆転磁場ピンチプラズマの研究に携わりました。これが長年にわたる核融合研究への第一歩です。
そこからこれまでに至るまで、プラズマ計測の分野を中心に、多種多様なプラズマに関わってきました。
最初に就職した核融合科学研究所(NIFS)では、川端一男先生の指導の下、当時建設中であったLHD装置(Large Helical Device、大型ヘリカル装置)の計測装置の開発に取り組みました。これと並行し、JIPPT II-Uトカマク装置やCHSヘリカル装置での実験にも参加し、チームでの研究を経験しました。
その後、LHDのファーストプラズマ成功と同時に東京大学に戻り、TST-M球状トカマク装置での実験に参加しました。その後、高瀬雄一先生とともにTST-2球状トカマク装置の設計・製作を行い、現在もこれを用いた実験研究を行っています。
プラズマ計測に長年関わってきたご縁もあり、日本の原型炉計画であるJA DEMOの設計や、九州大学のQUEST球状トカマク実験にも関わらせてもらいました。
Q : 名だたる日本の核融合装置での実験に関わられてこられていますが、どのような実績を残されてきたのでしょうか
プラズマ計測に関しては、LHDでのプラズマ生成実験のために当時世界最高性能となる遠赤外レーザー干渉計を建設し、稼働させたことが挙げられます。ほかにも、Xモードマイクロ波干渉計、ダブルパストムソン散乱法、マルチパトムソン散乱法、可視光4ビーム相関法の実証など、新しい手法の実証もいくつか行いました。特に、マイクロ波反射計については、マイクロ波の配置や角度といった測定条件に関する一般理論を構築するとともに、いくつかの実験研究を通じて、当時あいまいだった信号のずれ(もしくは揺らぎ)の原因と対策を明らかにしました。
現在も、プラズマ計測においていくつかの新しいアイディアを実証しようとしています。TST-2球状トカマク装置では、電流駆動(プラズマに電流を流す技術)に関連する実験的、理論的な研究を行ってきました。球状トカマクでは、中心にコイルを入れずに電流を流し、プラズマの形を球状に保つ方法が課題になっており、多くの装置では電子サイクロトロン波を用いていますが、TST-2では、これとは別の高次高調速波や低域混成波を用いた方法でも球状トカマク配位が生成できることを世界で初めて実証しました。これに関連して、高速電子の効果を考慮した3種の新しいプラズマの平衡解析手法(打ち切り平衡、3流体平衡、ハイブリッド平衡)も開発しました。

Q : まさにプラズマ計測のエキスパートで、FASTプロジェクトにも欠かせない存在かと思います。FASTにはどのような経緯で参画することになったのでしょうか。
FASTプロジェクトの前身は、「ST2035」と呼称したプロジェクトで、国の「ムーンショット型研究開発制度」に応募するべく、2035年にDT(重水素とトリチウムによる核融合反応)運転を開始する球状トカマク型小型DTフュージョン試験施設として計画されました。元々は、複数の大学の装置を使い、球状トカマクの研究を推進する球状トカマク(ST)の連携部会が主体となり始まったプロジェクトで、当初はDD(重水素と重水素による核融合反応)運転を想定していましたが、その後、DT運転かつ中性子源を想定する計画へとアップグレードされました。
ST2035は、私自身がプロジェクトリーダーとなり「ムーンショット型研究開発制度」に応募しましたが、残念ながら結果は不採択でした。しかし、フュージョンエネルギーの早期実現として適切なコンセプトであったことから、その後、計画を仕切り直し、京都フュージョニアリング社をプロジェクトリーダーに据えFASTプロジェクトとして始動しました。
FASTプロジェクトは、私がST連携部会の部会長という立場だったこともあり、何かしらムーンショットに提案しなければならない状況からスタートしたST2035から進化したものなので、ある意味では巻き込まれたまま参画することになったとも言えます。しかし、プランを膨らませていく段階で、研究者や民間企業など多くの仲間に恵まれながらチャンスをもらえたのは幸運でしたし、とてもやりがいを感じています。

Q : FASTプロジェクトではどのようなことに取り組まれているのでしょうか。
プラズマ設計チームの一員として、プラズマ計測を担当するとともに、マクロな視点での装置の検討を行っています。FASTのプラズマ計測には、ITERの計測やJA DEMOの計測の検討や開発が参考になります。ITERは実験装置であり、様々なデータを取るために多数の計測が開発、準備されています。一方、JA DEMOは、トリチウムを増殖し、発電を行うために、最低限の計測を考える必要があり、この2つは対照的です。
FASTの計測はこの2つの中間的なものになると予想されます。初期的な検討はそれほど困難ではないと考えていますが、具体的な設計製作は、苦労とやりがいに満ちていると予想しています。マクロな視点での検討は、新しいアイディアを生み出すために必須です。実験炉でも実証炉でもなく、その間の懸け橋となるFAST装置は、これまで検討されなかった領域であり、新しいアイディアが生まれる可能性のある領域と捉えています。
Q : FASTプロジェクトに掛ける想いや2030年代の発電実証に向けた意気込みをお願いします。
これまで、私を含む研究者は学術研究を担当し、ものづくりを担当する民間企業とは異なる視点を持っていました。よく言えば、学術的な課題を一つ一つ理解し解決してきたと言えますし、悪く言えば、遠い将来の課題である社会実装から目をそらしてきたとも言えます。
現在は、これまでの学術的な成果の蓄積と民間企業で培ってきた技術の蓄積のおかげで、遠い将来の課題と考えていた発電実証が意外に近い将来のターゲットであることに気づかされたところです。今後、この明確なターゲットを研究者と民間企業が共有することで、分業から協業へと両者の関係は変わっていき、それによって、フュージョンエネルギーの産業化、社会実装が加速度的に進むと予想されます。
研究者にとっては、自分が現役のうちにフュージョンエネルギーを目にできる可能性が出てきたわけで、ワクワクしているというのが正直な気持ちです。参画してくださる民間企業の方にも、このワクワク感を共有し、共に取り組んでいただきたいですね。