
Fusion Drivers -私たちが、実現する- Vol.3
安全技術統括部長 井野 孝
Starlight Engineで働くメンバーに焦点を当てるインタビュー企画「Fusion Drivers -私たちが、実現する-」。3人目は安全評価、リスクコミュニケーション、規制・許認可対応など、フュージョンエネルギーの社会実装に欠かせない業務を担当する井野をご紹介します。
井野は原子力業界に従事したのち、フュージョンエネルギー業界で安全評価やリスクコミュニケーションに携わるこの道のエキスパートです。そんな井野が日々どのような想いで仕事に向き合っているのか、またどのような仲間と挑戦していきたいと考えているのかを聞いています。
常にこだわってきた「社会実装」への貢献
– はじめに井野さんの業務を教えてください。
一言で言うと「安全」に関する業務を担当しています。フュージョンエネルギーが社会に実装されるためには、事前に社会や公衆への影響を分析したり、多様なステークホルダーと安全対策やリスクについてコミュニケーションを取ったりするなど、実用化に向けて取り組むべきことがたくさんあります。私は安全に関わる立場から、主に社会実装に向けたリスクコミュニケーションに取り組んでいます。
今年、グループ会社である京都フュージョニアリング(KF)からStarlight Engine(SLE)へ転籍しました。KFはフュージョン技術を世界のマーケットに届けていく世界有数の企業です。一方でSLEは、その技術を社会に根付かせるために、どのような未来像を描き、実現していくかを担う会社だと考えています。
フュージョンエネルギーの社会実装には、国や自治体、さらには地域住民の皆様をはじめとした多くのステークホルダーに受け入れていただく必要があります。その中でキーポイントになるのが「安全」です。だからこそ、この領域における丁寧なコミュニケーションは、今まさにSLEに求められている重要な役割の一つだと感じています。
また、社会実装に向けては、法的な整備・サイト選定・産業連携基盤など、技術以外の基盤構築も欠かせません。こうした取り組みはSLEだけで完結できるものではなく、さまざまな関係者との連携が必要になります。
そのため私は、対外的なコミュニケーションの視点を大切にしています。何を発信するかだけでなく、その前提となる分析や調査、社内体制の整備にも力を入れています。SLEが社会から信頼される存在になるために、一つひとつの意見交換や対話の機会を大切にしながら取り組んでいます。
– これまではどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。
キャリアの原点は、原子力を専門とする日本原子力発電での経験です。入社後の3年間は発電所の現場で勤務していました。現場では事故を想定した対応訓練が行われており、警報やパラメータの兆候から複雑な事象を瞬時に判断し、安全なプラント状態に移行するための対応を行う上司や先輩の姿を間近で見てきました。その経験を通じて、複雑系であるプラントの安全確保は、「現場の人が迷わず動ける設計」や「現場志向の仕組み」によって支えられていることを学びました。新入社員ながら、これらが安全の根幹であるという視点を持つことができたと思います。
東日本大震災の後には、安全解析(対策の有効性評価)や事故対応手順に関わるようになりました。発電所の事故を実際に再現することはできないため、事前の解析を行い、安全対策が有効に機能するかを評価します。私は発電所のオペレーターと調整しながら事故対応手順を策定し、その内容をメーカーとの協議を通じて解析へ反映させ、安全対策の有効性を確認する業務を担当していました。また、その結果を取りまとめ、規制当局へ説明する役割も担っていました。解析結果や安全対策は、国や自治体の防災計画の議論にも影響を与えるため、事故時の想定やリスク評価について、技術担当として説明する機会も多くありました。
その後、担当していた発電所の設置許可業務が一定の区切りを迎えたタイミングで、福島第一原子力発電所に関わりたいと自ら希望し、国の認可法人である原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)へ出向しました。NDFでは、廃炉に関するリスク分析を担当しました。福島第一原子力発電所の廃炉は前例のない取り組みであり、多くの不確実性を伴います。一方で、将来のリスクを着実に低減していくためには、作業を前に進めていかなければなりません。そのため、廃炉作業の進捗状況や計画に伴うリスクについて、社会にわかりやすく発信することも重要な役割でした。そこで私は、学会等を通じてリスク分析方法の検討や放射線リスク・コスト・工程など複数のリスクの考え方について学びながら、現場志向の安全確保の考え方とリスクに関する社会への発信に携わりました。
NDFには優秀なエンジニアが集まっており、政府機関、電力会社、メーカー、商社などさまざまなバックグラウンドを持つ方々と一緒に仕事ができたのも、良い経験になっています。

社会と対話し、社会を動かしていく仕事
– 非常に重要な仕事ですし、やりがいもあったのではと思います。そこからKF、そしてSLEへ入社されたきっかけは何だったのでしょうか。
NDFへの出向期間が終わろうとしていた頃、今後のキャリアについて改めて考えるようになりました。これまでの経験や専門性にとらわれず、もう少し広い視点で世の中を見たときに、新しい技術を通じて社会を動かしている実感を持ちたいと思うようになりました。転職活動では、「その技術によって社会が動いているか」という点を特に重視していました。モビリティやライフサイエンスなど分野を限定せず、さまざまな企業の方とお話しする機会をいただきましたし、実際にいくつかの会社からお声がけもいただきました。
そんな中で出会ったのが京都フュージョニアリング(KF)でした。当時の私にとって、フュージョンエネルギーは最も壮大で、正直なところ全容が見えない分野でした。一方で、地球規模の課題解決につながる可能性を持つ技術であり、その実現に向けて本気で取り組んでいる国内唯一の民間企業だという点に強く惹かれました。また、技術開発だけでなく、ビジネスとしてフュージョンエネルギーを社会に実装しようとしていたことや、国内にとどまらずグローバル市場を見据えていたことにも大きな魅力を感じました。そこで、当時の社長に自ら連絡を取り、結果として入社することになりました。
KFではさまざまな業務に携わる一方で、フュージョンエネルギー発電実証プロジェクト「FAST」にも関わる機会がありました。その中で、技術を社会に実装するという挑戦の面白さをより強く感じるようになり、「FAST」の実施主体であるStarlight Engine(SLE)へ転籍しました。現在は、フュージョンエネルギーの社会実装を実現するための活動に取り組んでいます。
– 一般の方にとって、既存の原子力発電とフュージョンエネルギーの違いはわかりにくい部分もあると思います。その点についても説明してもらえますか。
既存の原子力発電(核分裂)とフュージョンエネルギー(核融合)では、エネルギーを生み出す反応の原理が根本から異なります。
原子力発電は、ウランなどの重い原子と中性子がぶつかることで生じる核反応(核分裂反応)を利用しています。この反応で発生する中性子がまた次の核分裂反応を引き起こすため、反応の連鎖が起きます。その連鎖反応を制御することによって、エネルギーを安全かつ安定的に取り出しています。
一方、フュージョンエネルギーの核融合反応は、軽い原子同士を融合させることでエネルギーを生み出します。そのためには超高温のプラズマ状態を維持し続けなければならず、装置の電源が止まったり、燃料の供給が途絶えたりするなど、プラズマを維持する条件が少しでも崩れると反応は停止します。反応が連鎖する仕組みではないため、反応を継続させる難しさがある一方で、異常時には反応が止まるという特徴があります。
ただし、フュージョンエネルギーだから安全だと単純に言いたいわけではありません。原子力発電も火力発電も化学プラントも、それぞれの技術や設備の特性に応じた安全対策が必要です。フュージョンエネルギーも同様で、その特徴に適した安全設計や運用が欠かせません。
私は、これまで積み重ねられてきた研究成果や、原子力分野で培われた放射線防護の考え方、他産業におけるプラント設計・運用のノウハウなど、多くの知見を活かすことができると考えています。そしてもう一つ大切なのが、社会とのコミュニケーションです。安全性は技術だけで成立するものではなく、社会からの理解と信頼があって初めて成り立つものだと考えています。ステークホルダーによって関心や不安に感じるポイントは異なるため、フュージョンエネルギーの特徴やリスク、安全確保に向けた考え方について、丁寧に対話を重ねていくことが欠かせません。
初期から外の意見を取り込むことが重要
– 対外的に説明していくにあたり、ガバナンスも含めてどういったコミュニケーションを取っていますか。
そこは非常に重要なポイントです。私の考えはとてもシンプルで、社会の皆様が私たちに対して率直に意見や懸念を伝えられる環境をつくることが何より大切だと考えています。
設計が完全に固まった上で、外部への説明や許可申請を行うという進め方もありますが、私はそうではなく、まだ設計段階でサイト(建設場所)を検討しているような早いフェーズから、規制当局や自治体の皆様とコミュニケーションを重ねることが大事だと思います。
将来的に規制基準を満たすことはもちろんですが、それだけでは十分ではありません。どのように安全を確保していくのか、その方向性そのものについても、早い段階からステークホルダーの皆様に意見をいただきながら進めていくことが大切だと思っています。検討のプロセスを共有し、議論しながら進めること自体がガバナンスの確保につながると考えています。
安全については、技術的な成立性や科学的な論拠を示し、設計や運用としての妥当性を説明することも重要です。しかしそれと同じくらい大切なのが、なぜその安全対策を選んだのか、どのような議論を経てその結論に行き着いたのか、というプロセスを共有することです。安全対策そのものをどのような思想で構築すべきなのかを考えるところから、内部の閉じた議論にせず、関係者と一緒に作り上げたいと考えています。
実際にFASTについては、昨年度から規制当局との意見交換を継続的に行っています。設計が完全に固まる前の段階から、このような対話の場をいただけていることはとても貴重なことですし、こうした積み上げが将来の信頼関係やガバナンスの基盤になっていくと考えています。
– 規制当局とは地道に信頼を積み重ねているということですね。自治体やアカデミアの方々とはどうでしょうか。
自治体の皆様とは、主にサイト(建設場所)の選定に関するコミュニケーションを行っています。私は、積極的に安全性やリスクに関する議題を挙げて対話を続けていて、規制当局との議論の内容なども共有するようにしています。
アカデミアとの関わりとしては、日本原子力学会の中にあるフュージョンエネルギー関連の組織内に設置されている、フュージョンエネルギーのリスクに関する専門委員会に委員として参加し、多くの議論を交わしました。「技術をどう前に進めるか」という技術者目線の議論だけではなく、「フュージョンエネルギーという新しい技術を社会がどう捉え、社会受容性をどう構築していくべきか」という客観的な問いについても議論しております。
もともと国内におけるフュージョンエネルギーの技術基盤は、量子科学技術研究開発機構(QST)をはじめとする研究機関や大学、学会等による長年の研究活動によって築かれてきています。近年は、そこに当社のように、フュージョンエネルギーの社会実装を意識する民間企業が出てくるようになりました。当社が取り組む「FAST」プロジェクトは一社だけで実現できるものではありません。これまで培われてきた技術基盤や研究成果を活かしながら、さらには将来のサプライチェーンを意識し、産官学が連携して初めて実現できるプロジェクトだと考えています。
その意味でも、多様な立場の方々が一緒になって議論し、相互理解を深めていくことは非常に重要です。実際、この数年でフュージョンエネルギーに関する議論は活発になってきており、安全性についてもさまざまな場で意見交換が行われるようになりました。そうしたコミュニケーションの広がりは、フュージョンエネルギーの社会実装に向けた大きな前進だと感じています。
– お話を聞いていると、かなり幅広い範囲でコミュニケーションされていると思いますが、どんなチーム体制で、どういった動き方をされているのでしょうか。
今年6月に有楽町オフィスを開設したことで、対面でコミュニケーションを取る機会が増えました。社内には、安全評価、規制周り、サイト開発、土木建築など、それぞれ異なる専門性を持つメンバーがいて、私はそうしたメンバーと日々連携しながら仕事を進めています。
社外とのコミュニケーションも非常に活発です。正直なところ、頭の整理が追いついていないほど多様な議論を交わしながら、色んなことが同時並行で動いています。私は、安全やリスクコミュニケーションの視点を持ちながら、多様な意見を持つ方との対話を大切にしています。社外で得た気づきや意見を社内にもフィードバックし、それぞれの専門チームと議論しながらプロジェクトに反映していくことも、重要な役割の一つだと考えています。
また、SLEには豊富な経験を持つ技術メンバーが次々と加わっており、それぞれが入社後すぐにプロジェクトをリードしています。日常の何気ない立ち話から学ぶことも多く、非常に刺激を受けています。加えて当社の戦略・広報のメンバーや、会社の基盤を作る運営・人事・労務などコーポレートメンバーも、それぞれがプロフェッショナルとして日々業務に向き合っています。日々のコミュニケーションを通じて、SLEという組織が多くのプロフェッショナルによって支えられていることを実感しています。

「社会実装」のためにも、色々な人が参画してほしい
– SLEの働く魅力を教えてください。また、SLEにはどんな人に参画してもらいたいですか?
この仕事の最大の魅力は、フュージョンエネルギーが社会を大きく変える可能性を持っていることに尽きます。ここ数年で国の動きや業界を取り巻く環境も大きく変化し、そうしたダイナミックな潮流の中で仕事ができることにやりがいを感じています。
また、フュージョンエネルギーは非常に裾野の広い分野です。そのため、ご自身の専門性を活かしながら、フュージョンエネルギーの実現に携わりたいという方にはぜひ関心を持っていただきたいですね。詳しくは求人票をご覧いただきたいのですが、SLEでは技術系の職種だけでなく、会社の基盤を支えるコーポレート部門や、事業戦略の立案・実行を担うメンバーなど、さまざまなポジションで仲間を募集しています。
実際に社内には、コミュニケーション力を活かしてチームを動かすのが得意な人もいれば、一つのテーマを深く掘り下げ、時間をかけて着実に成果を生み出す職人気質の人もいます。さまざまなバックグラウンドや強みを持つメンバーが活躍しているので、「こういうタイプでなければならない」という決まった人物像はありません。
大切なのは、自分の専門性や経験を活かしながら、新しい産業をつくっていく挑戦にワクワクできることだと思います。まずはフュージョンエネルギーやSLEに興味を持っていただき、気軽に応募してもらえたらうれしいですね。
– それでは最後に、未来のメンバーに向けてメッセージをお願いします。
私たちが挑戦しているのは、単に自社の装置を完成させることではありません。フュージョンエネルギーが真に社会に根付き、持続的に発展していくための共通基盤を、日本から世界へ生み出していくことだと考えています。
そして、何よりもお伝えしたいのは、「挑戦するなら今だ」ということです。フュージョンエネルギーを取り巻く環境は大きく動き始めています。国の政策も本格化し、法規制の整備や社会実装に向けた具体的な議論が進むなど、まさに歴史的な転換点を迎えています。こうしたタイミングに当事者として関わり、ゼロから未来のエネルギーのルールや仕組みをつくり上げていく経験は、いつでも得られるものではありません。10年後に同じ業界へ入ったとしても、今この瞬間にしか味わえない挑戦があると思っています。
未来のエネルギーを自分たちの手で形にしたい。社会に新しい価値を生み出したい。そんな熱意を持つ方と、ぜひ一緒にこの挑戦を進めていきたいですね。
Starlight Engineでは、共にフュージョンエネルギーを実現する仲間を募集しています。
少しでも興味をお持ちいただけた方は、ぜひ求人サイトもご覧ください。