
京都大学名誉教授の中村祐司先生は、現在Starlight Engineの技術グループに所属されています。長年にわたるプラズマの理論・シミュレーション研究で培ってきた豊富な知見を活かし、FASTプロジェクトによる2030年代のフュージョンエネルギー発電実証に向けて取り組まれています。「半生を注いできたフュージョンエネルギーの実現を、この目で確かめたい」——そんな強い想いを胸に、次世代を担う若い研究者や技術者へ技術と志を継承することにも情熱を注いでいます。
中村先生がこれまでどのような核融合研究に関わってこられたのか、そして2030年代の発電実証を目指す産学連携プロジェクト「FAST」に懸ける想いを聞いてきました。
Q. Starlight Engineに所属されるまでに、どのような研究をされていたのかを教えてください
私のフュージョンエネルギー研究の第一歩は、約45年前、京都大学工学部原子核工学科のプラズマグループに配属されたことに遡ります。学生時代は磁場閉じ込め核融合プラズマの理論研究で世界的に知られる若谷誠宏先生の指導を受け、ドーナツ型(トーラス)のプラズマ内部で熱や粒子がどのように移動・変化するかを予測する「輸送コード(計算プログラム)」を用いて、高エネルギーの粒子を打ち込んでプラズマを加熱する「中性粒子ビーム入射(NBI)」のシミュレーションに取り組みました。また、燃料となるマイナス約260℃の「固体水素ペレット(小粒)」を高速でプラズマ内部に撃ち込み、熱で溶けて蒸発・電離(溶発)していく過程の理論解析にも従事しました。
大学卒業後は、京都大学ヘリオトロン核融合研究センターに就職し、その後の同センターの改組により京都大学大学院エネルギー科学研究科へ異動、令和6年度に定年退職を迎えるまで、長年にわたり教育・研究活動に努めました。
研究テーマは一貫して、トカマク型やヘリカル型をはじめとする超高温トーラスプラズマの磁場閉じ込めです。輸送現象、加熱メカニズム、そして磁気流体力学(MHD)の平衡・安定性解析など、フュージョンエネルギー実現に向けた幅広い理論・シミュレーション研究に取り組みました。
昨年度からは京都フュージョニアリング株式会社に関わるようになり、今年度よりStarlight Engineに移籍して現在にいたります。
Q. 一貫したテーマで研究を続けられる中、これまでにどのような実績を残されてきたのでしょうか
これまでの研究実績の中で、学生時代に日本で先駆けて「固体水素ペレット溶発理論」に着手しました。重水素トカマクプラズマへ三重水素ペレットを入射し、フュージョン反応を誘発させる輸送シミュレーションを展開したことは原点の一つです。
就職後は、核融合科学研究所(NIFS)の「大型ヘリカル装置(LHD)計画」に参画し、「輸送シミュレーション解析」「三次元MHDの平衡・安定性評価」「新古典輸送理論に基づく自発電流(ブートストラップ電流)の解析」等の物理設計に深く関与しました。また、京都大学のヘリカル軸ヘリオトロン装置「Heliotron J」の物理設計においては、独自の新しい閉じ込め配位を立案するなど中心的な役割を果たしました。
トカマク領域においては、非軸対称性(三次元性)が及ぼす影響の解明に注力しました。具体的には、フュージョン反応生成物であるアルファ粒子の閉じ込め挙動や、外部導体に流れる渦電流を考慮したディスラプション(プラズマの突発的崩壊現象)の理論・シミュレーション解析です。
国際・国内的な推進枠組みとしても、日欧協力事業である「幅広いアプローチ(BA)活動」のIFERC事業委員会・日本側委員を務めたほか、日本の原型炉計画における共同研究や特別チーム活動を通じてフュージョン炉設計に貢献してきました。

Q. 研究者として国内外でも豊富な実績を残された先生が、なぜ民間企業が主導するFASTプロジェクトに参画することになったのでしょうか
フュージョンエネルギーの実現には、炉内に1億度を超える高温プラズマを安定して閉じ込め続ける必要があります。しかし、私が研究を始めた当初の実験規模では、1,000万度程度の通常の水素プラズマを閉じ込めるのが限界でした。
それから数十年、装置の大型化と世界中の研究者による膨大な知見の積み重ね(ITER計画等)により、科学的実証はほぼ確実な段階へと到達しました。現在の開発ターゲットは、いよいよ「フュージョンプラズマからエネルギーを取り出し、実際に発電を実証する」というフェーズに移行しています。
京都大学を定年退職した際、私の中には明確な想いがありました。「まだまだ研究の最前線に立ち続けたい」、「将来を担う若手研究者を育成したい」、そして何より「半生を捧げてきたフュージョンエネルギー研究が、社会の力となる瞬間をこの目で確かめたい」ということです。
そんなとき、スピード感をもって2030年代の発電実証を目指す「FASTプロジェクト」を知り、考え方に共感したことから参画を決意しました。結果、京都フュージョニアリングに関わるようになり、現在はFASTの事業主体であるStarlight Engineで情熱を注いでいます。
Q. FASTでは現在どのような役割を担っているのでしょうか
現在、私は技術グループのScience Departmentに所属し、プラズマの性能評価・予測、および運転シナリオの策定を担っています。
プラズマは電子とイオンという荷電粒子の集合体です。粒子が運動すれば電流が生じ、電流が流れれば磁場が形成されます。その磁場がさらにプラズマ自体の運動へフィードバックするため、時にプラズマの不安定性を引き起こしたり、プラズマ内に乱流を発生させて閉じ込め性能を損なわせたりします。私たちの役割は、高度な計算機シミュレーションを駆使してプラズマの閉じ込め特性を精度高く評価し、それらを安定かつ最適に制御するための「運転シナリオ」を構築することです。
実際のフュージョンプラントでは、プラズマ自体の性能のみならず、周辺構造物や機器との複合的な相互作用が極めて重要となります。そのため現在は、必要となる計算コードの新規開発・整備、ならびに磁場の非軸対称成分(三次元効果)を考慮したアルファ粒子等の高速イオン軌道計算に全力を注いでいます。

Q. 最後に、中村先生がFASTプロジェクトを通じて実現したいことをお聞かせください
学生時代、日本の核融合研究の黎明期を切り開いた吉川庄一先生の著書『核融合への挑戦』を手にしたことが、私がこの分野の門をたたいたきっかけでした。未来のエネルギー開発という壮大なロマンに魅了されたものの、実際の道のりは想像以上に険しく、長年にわたりフュージョンエネルギーは「夢のまた夢」と語られ続けてきました。
しかし今、時代は大きく変わりました。学生時代にはコンピューター上のシミュレーションの中でしか描けなかったフュージョンプラントによる発電が、FASTプロジェクトをはじめとする取り組みによって、ついに手を伸ばせば届く現実になろうとしています。
プラズマの閉じ込め性能自体は、すでに十分なフュージョン反応を起こせる領域に達しており、現在はプラント技術の統合開発という次の段階に入っています。しかし、炉工学的・経済的な観点から見れば、プラズマ性能のさらなる高効率化・最適化は依然として核心的な課題です。物理理論とシミュレーションの力でプラズマ研究をさらに深化させるとともに、この歴史的転換期を担う若手世代へ技術と意志を継承し、2030年代の発電実証へ向けて全力で取り組んでいきたいです。