高エネルギー加速器研究機構(KEK)の柴田崇統助教は、加速器科学や物性科学において豊富な経験と実績を持ち、FAST装置に不可欠な加熱システムである中性粒子入射加熱装置(NBI)の開発をリードしています。学生時代からの研究人生のなかで、フュージョンエネルギーによる発電実証を日本が総力を結集し取り組むべき国家的課題だと強く感じ、 FASTプロジェクトではその思いを胸に、チームメンバーと共に前例のない挑戦に臨んでいます。
柴田先生がこれまでどのような核融合研究に関わってこられたのか、そして2030年代の発電実証を目指す産学連携プロジェクト「FAST」に懸ける想いを聞いてきました。
Q. これまでに研究されていた分野や、研究者としての歩みを教えてください
学生時代は、フュージョン装置のダイバータ領域におけるプラズマシミュレーションをテーマに研究していました。当時は大規模なフュージョンプラズマ実験の機会が限られ、さらに大型装置を対象とした数値シミュレーションには計算性能が不足している状況がありました。そこで、ダイバータ壁近傍のフュージョンプラズマ(数万℃のプラズマ温度、かつ1 m3あたり1019 個のプラズマ粒子密度)とパラメータが近く、実験的にも開発ニーズが高かったイオン源内部のプラズマシミュレーションへ研究対象を移しました。イオン源は内部でプラズマを生成し、目的種のイオンを静電加速によってビームとして取り出す装置です。内部プラズマの挙動が十分解明されていなかったため、精密なシミュレーションの需要は非常に高いものでした。
その後、量子科学技術研究開発機構(QST)(旧:日本原子力研究開発機構:JAEA)での研究活動、さらに欧州合同原子核研究機関(CERN)での研究を経て、現在所属する高エネルギー加速器研究機構(KEK)に着任しました。
KEKでは素粒子物理実験や物質・生命科学実験を支える加速器の研究開発が行われています。私は過去約15年間にわたり、大強度陽子加速器施設 「J-PARC」における高周波放電型(RF)イオン源や、医療用加速器向けの電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源の開発に従事してきました。J-PARCでは、「イオンビーム電流密度 1500 A/m²以上」「イオン源の連続運転時間 6.8カ月」「ビーム電流揺らぎ 0.5%以下」といった世界最高水準の記録を達成し、国際的に見ても最先端の陽子加速器用イオン源を実現することができました。
Q. フュージョンエネルギーの分野では、どのような研究をされてこられたのでしょうか
フュージョンエネルギー分野では、当時のJAEA(現在のQST那珂フュージョン科学技術研究所)において、大型トカマク装置「JT-60」および国際熱核融合実験炉「ITER」向けの中性粒子入射加熱装置(NBI)の開発グループに所属していました。NBI用の大型イオン源は、長さ1mを超える大きな開口部全体からイオンビームを取り出します。しかし、ビームの強さが場所によって均一にならず、一部の領域にビームが集中してしまうことで、装置の特定部分に過大な熱がかかるという問題がありました。プラズマ中の電子挙動を詳細に追跡するシミュレーションを行った結果、この現象の主要因が磁気ドリフトであることを解明しました。この知見をもとにイオン源内部の磁場設計を見直し、ビーム均一性を大幅に改善することに成功しまして、この成果は平成27年度 JT-60共同研究優秀賞を受賞しています※1。
さらに2019年からは、核融合科学研究所(NIFS)との共同研究として、高周波放電型イオン源を用いた新型NBI開発に参加しました。日本国内では従来、フィラメントを用いたアーク放電型イオン源が主流でしたが、フィラメント寿命の短さが大きな問題でした。これを解決するため、長寿命のRFイオン源が導入されるようになったのですが、私が加速器分野でRFイオン源を開発してきた経験があったことからお声がけいただき、2023年からはクロスアポイントメント職員として大型RFイオン源の研究試験に携わっています。
※1:https://www.qst.go.jp/uploaded/attachment/4862.pdf

Q. FASTプロジェクトに参画することになった背景を教えてください
約30年前から、イオン源(特に生成の難しい負イオン源)の研究者が集まって議論する「負イオン研究会」が毎年開催されています。2025年度からは、その研究代表を私が引き継ぎました。しかし近年、日本国内のイオン源研究者は減少傾向にあります。そのため、イオンビームの種類や用途、研究機関・企業の枠組みを越えて、国内のすべてのイオン源関係者に研究会を開く方針に切り替えました。
イオン源コミュニティや用途の拡大をできないかと思っていたちょうどその頃、大阪大学の伊庭野先生や京都フュージョニアリング株式会社の西村美紀氏からFASTプロジェクトを紹介され、NBI開発が強く求められていることを知りました。日本国内ではNBI用イオン源を本格的に扱える現役研究者が少ない状況もあり、さらにFASTが「日本のフュージョン開発の集大成」とも言えるプロジェクトであることから、自分の本業である加速器分野の知見が役に立つのでないかと可能性を感じ、参画を決めました。
Q. FASTでは現在どのような役割を担っているのでしょうか
FASTでは、フュージョンプラズマに電流を駆動するための重水素負イオン(D⁻)ビームを用いた中性粒子入射装置 NNBI(Negative-ion-based Neutral Beam Injection)の開発を担当しています。FASTの運転開始までに要求性能を満たすNNBIを製作することを目標としたチームの取りまとめ役を担っており、前例のない大出力NNBIシステムの実現にチャレンジしています。FASTでは1台あたり11 MW、3台合計33 MWという目標を設定していますが、このような大出力NNBIは未だ世の中に存在していません。そのため、新たな大出力イオン源システムの開発が不可欠です。また2030年代の発電実証という時間が限られる一方で、NNBIのような巨大システムは製作だけで1年以上、3台となると3年以上の期間を要することから、新規R&Dを行う期間にも制約があります。
NNBIのアップグレードと2030年代の発電実証までの製作という2つの要求に応えるため、既存の知見を応用できるところは活用しながら、大手メーカーと製作仕様・期間を調整しています。これに加えて、研究者間のネットワークを活かして国内研究機関・企業を巻き込んだ新規イオン源R&Dの検討を行うなど、多角的なアプローチに取り組んでいます。

Q. 最後に、2030年代の発電実証に向けた意気込みをお聞かせください
学生の頃から、核融合研究をされている先生方から「日本はエネルギー資源に乏しい国であり、いずれ深刻な影響が出る。だからこそ、核融合研究は止めてはならない」と繰り返し教えられてきました。現在では、世界規模で資源獲得競争が激化し、エネルギー価格も上昇の一途をたどっています。この状況を考えると、フュージョンエネルギーによる発電実証は、日本の研究者・技術者が総力を結集し取り組むべき国家的課題だと強く感じています。
私は加速器科学や物性科学といったフュージョンとは異なる分野出身ですが、だからこそ持ち込める新しい視点があると考えています。荷電粒子制御技術や高性能材料の応用など異分野の知見を融合し、フュージョン分野の先達が築いてきた道に、新たなブレイクスルーをもたらす存在でありたいと考えています。
